アラン・デュカスなどの三ツ星レストランをはじめ、世界中のシェフに愛用されているこの『ペルスヴァル』。それは刃物の街として有名なオーヴェルニュ地方ティエールのナイフ工房の名です。
2012年には、卓越した職人技、革新的な仕事をしている工房を取り上げるコンテスト「スター&メティエ」でグランプリを獲得し、以来日本のレストランでも愛用するシェフが増えてきました。
100年前に作られたアンティークの飾り絵皿とともに、ラ メゾン クルティーヌのテーブルに置かれ,皆様を迎えるテーブルナイフ「9.47」は、このブランドの代表作です。
パリの一ツ星レストラン「ラ メゾン クルティーヌ」のオーナーシェフであったイヴ・シャルルが、自らの料理にぴったりの理想のテーブルナイフを求め、遂には自分の手で完成させてしまったモデルです。崩れやすい野菜のテリーヌから肉厚のステーキまでストレスなくカットできてしまう理想のナイフです。ナイフの柄にはいろいろな素材が用意され、それぞれに美しいことはもちろん、重厚なものからポップなものまで、手触りや温度の心地よさや、持ち手に使用される木それぞれの香りまでも楽しめる、卓越した個性が光ります。
当然、対となるカトラリーにもこだわりが有ります。全てのカトラリーを語ると長くなるので、ここではフォークをご紹介しましょう。
まずは一般的なフォークを思い浮かべてください。
いろいろなフォルムがありますね。柄の細いものから、重そうなものまであります。そしてその先端に3つ股か4つ股のヘッドがあります。先端は四角く潰れ、栗を刺そうと思ったら刺さらず転がっていったなんていう思い出もあるかもしれません。
さて、3つ股よりも4つ股のカトラリーの方が使い安いのは分かります。刺したものが安定しやすいですからね。ですが、もし5本となると幅広になり口にあたってしまいそうです。
ペルスヴァルのフォークは4つ股です。もちろん全て手仕事でしあげます。では、その4つ股に注目してください。
まずは口にあたる両端の2本。先端を尖らせてから、わざわざ先端をわずかに潰して口内を傷つかぬように配慮してあります。そして、中央の2本は両端よりほんの僅かに短くしてから、先端を尖らせて食材にストレスなく刺さるようにし、かつ、口内にはその先端があたらないように作り上げているのが分かります。
次に、そのペルスヴァル独特のヘッドの角度とフォルムに着目してみます。
そのフォルムは、持ちやすさと食べやすさ、ヘッドを口へ運んだ時の軌跡の美しさを追い求め作られています。それだけでも十分素晴らしいのですが、驚くべきは角度です。「ヘッドを口へ入れた時の食べ手の姿勢の美しさにまで考えを巡らされている」というところでしょう。その曲線美によるフォルムの美しさもさることながら、使用する者を美しく在らせる、その匠の発想と心づかいの美しさに心が魅かれます。
これぞまさにの「ペルスヴァル」が世界の一流シェフや、食通達に認められる所以ではないでしょうか。
最後に艶の有無について。
ペルスヴァルのカトラリーのヘッドを御覧ください。艶やかに磨き上げられています。
しかし持ち手へ視線を移してゆくと徐々に艶は消され、最後は完全にマットな仕上がりとなります。(ラ メゾン クルティーヌのカトラリーはすべてペルスヴァル社製です。ぜひ食事にいらして、フォルムや角度、艶の有無をご確認ください。ただ、クルティーヌのカトラリーはもう4年以上も毎日使い続けているので、傷がついてしまい、艶の有無に関しては分かりづらくなっていますが、丁寧に使い続ければその艶の有無は確実に見てとれます。)
大体のカトラリーは艶があるタイプか、艶を消したマットなタイプの2種類に別れます。しかし、ペルスヴァルは、1本のカトラリーに艶のある部分と消す部分を作りました。
では、なぜそうしたのでしょう。一番シンプルで最小限の装飾という、「美しさ」を求めた結果なのでしょうか。
はい、それもあります。しかし、そこは使用者の視点と、カトラリーの本質に立って考えるとよりペルスヴァルの価値観に近づくことができるように思います。
そもそも、カトラリーとは何か、という事です。
当然それは食事を口に運ぶためのものということになります。ですので、その先端は料理とともに口に入ることとなります。そのヘッドにおいて一番大切にすべきポイントは、清潔か、否か、ではないでしょうか。
ヘッドに艶がある。それは清潔を一番大切にしているが故に生まれる自然な配慮なのです。
では持ち手の方はどうでしょう。もし仮に手で触れる場所が、艶やかでありすぎたならば、使用したあとに指紋が浮き上がってしまうのではないかという心配を抱える紳士淑女がいないとは限りません(だいぶ大げさですが、真面目な話です(笑。)そしてその心配事は、決してスマートな食事にあるべき心境であるとは言えませんし、その僅かなほころびがもたらすその状況や空間が、のちに記憶に残るような、スマートで素敵なワンシーンとなるとは思えません。
そこで、「艶を消すことによりその心配事を根本から除いた」というささやかな心遣いの有無が非常に重要となるのです。
はたして、皆様は過去使用してきたカトラリーで、このように、配慮から艶の有無をコントロールしたカトラリーに出会ったことがあるでしょうか。
その配慮がその使用者を美しく在らせ、空間の美しさまでをも支えているという事実。
カトラリーを手がける匠の誇りすら感じる、その洗練と美は、あたかも当たり前のように、溶け合い、形作られている。まるで互いを引き立て合う「マリアージュ」のような一体感を持ってそこにある。それがペルスヴァルのカトラリーなのです。
通常、レストランでは、お客様と料理が主役。その脇に添えられるカトラリーを、一見しただけではまずそんなに想いの詰まったカトラリーであるとは気づかないでしょう。それどころか、使用していてもまず気づかない。ただ、なぜかは気にも留めないが、心地のいい食事が続くな~という感じ。そういう、「自らを声高に語らず、アピールせず」というところも、必要なところだけ陰から支える、心地の良いサービスマンと同じ境地にあり、それはその分野での最上の美しさの在り方なのではないでしょうか。
ペウルスヴァルの職人達は彼らが携わる全てのものに、細部にわたってこだわりを光らせます。細かくひとつひとつ説明していてはこちらを読むのが大変になってしまうので端折ります(すでに十分長話ですし)が、彼らは、材質から、その曲線のライン、持ち手の温度と香り、角度、艶の有無、切れ味、長さ、重さ、重心にいたるまで、すべてに意味を与え、また、その意味に最高の技術で応える世界唯一の工房ということになります。
今までのカトラリーは、ただ、美しさ、テーブルの装飾の美として洗練されてきました。ですが、ペルスヴァルは、もう一度原点に立ち返り、原点に真摯に向き合いました。
料理を切るため、食事をするために最高のナイフとカトラリーを追求する。そして、その考えられる環境や、状況や、心持ちや、印象や、心地よさや、所作など、考えうるすべてにおいて美しくあるための追求。
極端にいえば、「ナイフや、フォークの本分を最高のレベルで全うさせるために追求するということを続けた結果得られたものの一つに、そのフォルムの美しさもあった」ということなのだと思います。
世界で語られる「ペルスヴァルの前にペルスヴァルなし」という言葉はまさにその象徴と言えるのではないでしょうか。
ラ メゾン クルティーヌでもそうですが、想いの全てを注ぎ込んだ料理をお召し上がり頂くためには,このカトラリーしかない、と思います。
最後に
Percevalオーナーのイヴ・シャルルは、元はパリ14区の一ツ星レストラン「ラ メゾン クルティーヌ」のオーナーシェフでした。
切れ味のよいテーブルナイフを探し求め、彼が出会ったのが、中世の時代から刃物の街として栄えるオーヴェルニュ地方ティエールの、Percevalの折り畳みナイフ [T-45]です。テーブルナイフの開発を依頼したものの難易度が高く、自らがPercevalのオーナーとなり一流のナイフ職人と研究に着手してもう10年以上。究極のナイフ作りが行われる工房の様子とその切れ味を写したした動画が冒頭のものです。まだご覧いただいていなければ、ぜひご覧ください。
美しいそのフォルム。
『ル・フランセ』
『ラドレ』ダマスカス仕様
『ル・グラン』ダマスカス仕様
あらためて、最初に戻りますが,フランス料理界の重鎮アラン・デュカスや、アラン・サンドランスのレストランにも採用され、パリ随一と呼ばれる肉屋のユーゴ・デノワイエーが依頼したステーキ専用モデル“888”までも存在する「ペルスヴァル』のナイフ。この“9.47”と呼ぶテーブルナイフは、非常に評価され、不動の地位を確立しつつあります。
先ほど少し触れましたが、この“9.47”はラ メゾン クルティーヌの初代オーナーシェフ、イヴ・シャルルが、2007年に当時パリの一つ星レストラン、ラ・メゾン・クルティーヌを私に任せ、パリとオーベルニュを行き来しながら、作り上げたこだわりのナイフです。それは親交の深いオーベルニュのワイン「ペイラー」の造り手、ステファン・マジョンヌがレストランに来たおりに持っていた一本のナイフ「T–45」から始まりました。(その物語りはまたいつか「フランスの7年半」で改めて語りたいと思います。)
その後イヴは「T–45」を作ったナイフ職人と意気投合し、理想のカトラリーを目指すことになります。そして、イヴとナイフ職人を引き合わせたステファンが造る「ペイラー」の今では語り草となる最高のワイン”9,47“の名をナイフにつけることで、ペイラーに対する感謝を表すこと(オマージュ)としました。こうして、食のスペシャリストといえる一つ星を持つシェフが手がける理想のカトラリーが誕生するのです。
イヴのこだわり、先にも話しましたが、それは、低温での焼き入れであったり、重さであったり、重心の位置であったり、素材に含まれる金属の配合バランスであったり、切れ味をよくする為のフォルムや手入れの仕方であったりしました。
そしてついには、デザインの一部であった艶をつけたり、消したりということを、きちんと理を持って、その2つの特徴から生まれる長所短所を活かし、カトラリーに艶のある部分と、消す部分をつけることに至っています。
私は当時から、イヴが、レストランとは違うこの新しい事業に乗り出す展望や、思い、情熱を聞いてきたので、今日、日本のラ メゾン クルティーヌにおいて、イヴ・シャルルが手がける、このカトラリーを扱えることを、イヴとともに非常に充実した思いと満足感を持って、誇りとともにテーブルに並べております。