東京、阿佐ヶ谷のフレンチレストラン「La Maison Courtine(クルティーヌ)」では、フランスが誇る世界でも最高峰の肉屋で一から学んだ熟成肉の技術を駆使しながら、滋賀近江牛の長期熟成に力を注いでおります。
クルティーヌの長期熟成肉は、牛一頭一頭の個性や性格、体調を考慮して飼育された滋賀近江八幡のとある農家さんの近江牛を使用しております。
ただ太らせて体格を大きくすれば(例えば、一頭を500kgではなく900kgにする事を目指して育てるほうが)、「1kgに対していくら」という値付けが示すように、はるかに儲かるし、あわよくば霜降りでA-3ランク以上がつけば、さらに大きく利益が出せる事になります。しかし、それをあえてせず、本当に「熟成肉ステーキにするための美味しいお肉」だけを実直に求め、送ってくださいます。(ただ、日本食のすき焼きや、しゃぶしゃぶは脂を落として食べるので、霜降りのA-5ランクが一番適すると思います。)
農家さん曰く、「牛の餌も、人が食べて美味しいと感ずるものを与えなければ、その肉質が美味になることはない」「牛それぞれの個性を大切にし、その長所を伸ばすことこそが健全。健全こそが美味へとつながる」「綺麗な内臓は健全な証。美味なお肉を目指すには、まずは、綺麗で健全な内臓を育てる事から。だからこそ牛一頭一頭それぞれにあわせて、適した餌と適した運動を一生懸命に考える」。そういった言葉には、感動しました。
そういう農家さんのもとで育つ牛たちは、とてもストレスのなさそうな表情をしています。
熟成肉で大切なのは、赤身の質です。そこにしっかりポテンシャルがあるからこそ、熟成に耐えられ、ひいては長期熟成を可能にします。
熟成させることによって、肉本来が持つ酵素が、赤身の中にある健全なタンパク質を分解し、旨味のもととなるアミノ酸を増加させますが、まさに、そこのポテンシャルが低ければ何もなりません。儲けを見越した極端な肥育による霜降りの牛にはない、健全なバランスの良い牛のみが、最高の熟成肉になると考えています。もちろん、その分手間暇も、お金も費やして、大切に育てられることになるので、仕入れ価格は安くはありません。しかし、そこは、そのクオリティを維持するのに必要な額ですので、高価だとも思いません。
先日その貴重な牛の美しい内臓(ロニョン)をいただく機会があり調理しましたが、私がフランスで食べた最高のロニョンに引けを取らない、むしろその味わいを凌駕したと思えるほどでした。まさに、調理してなお、生命が輝くかのような一皿となりました。これ以上健全で美味しい牛を育てる農家は他にないのではと思います。
”南仏ポーのレ・パピーユ・アンソリットの1周年記念に集まる人々”
そんな貴重なお肉が届いたあとは、クルティーヌできちんと管理して、熟成させるということになります。
熟成とは、先ほども話しましたが、肉本来がもつ酵素が、タンパク質を分解してアミノ酸を増加させる自浄作用を利用した調理法です。
当店の長期熟成では、骨付のまま、湿度と温度を管理した冷蔵室に吊るし、風のあたり具合や、湿度の肉への干渉を常に管理しながら、吊るす角度や、場所を変え、100日間の熟成へと
導きます。
牛肉は、脂から腐敗し、カビが繁殖してゆくため、脂の多い和牛を湿度の高い日本で熟成へ導くのは至難の業と言われています。
それでも、日本の文化が生み出した日本の誇りでもある黒毛和牛にこだわり、真摯に、誠実に管理し、最高峰の熟成肉を本場フランスで見て、触り、管理してきた経験と、2人の世界的な熟成士に直接教えを受けた知識により、日本の東京で、世界に誇れる熟成肉をご提供しております。
熟成肉の分野ではフランス、ひいては世界で最高峰であると言われる「ウイリアム・ベルネー/ル・セヴロー」と、「ユーゴ・デノワイエー/レガレヴー」も当店まで訪れ、熟成の状態を、見、嗅ぎ、触り、食し、その上で、「素晴らしく旨い」と品質、旨さのお墨付きを
いただきました。
善塔の料理と熟成肉が反響を呼んだ
”南仏ポーのレ・パピーユ・アンソリット”
100日前後から状態を見ながら熟成肉の提供を始めますが、「肉の熟成は骨から切り放した時点で止まる、それどころか劣化が始まる」と常々言っていた師の教えを守り、クルティーヌでは注文が入ってから必要な分だけを切り出しております。それから火入れを始めますので、提供時間は一般のお店よりもお時間を頂戴しております。どうぞ最上の香りでお客様に召し上がっていただくための我がままとして、お許しくださいますようお願い申し上げます。
クルティーヌの熟成肉の味わいは、日本の近江の生産者が一生懸命に育てた黒毛和牛であるという信頼と、安全性に裏打ちされたものです。
なにより、日本の現状として、最上の管理、育成をする畜産の方々が、最も気を使って育てる牛が和牛であるという事実も、クルティーヌが黒毛和牛にこだわる理由のひとつに挙げられるかもしれません。
そこには、アメリカやオーストラリア産の安い赤身肉に顕著な、あまり宜しくない牛肉特有の”蒸れたケモノ臭”のようなあの独特の臭みはありません。
(この臭いは熟成しても消えません)
クルティーヌが選ぶ生産者の近江牛(丹波牛)でつくる熟成肉は、肥育をしないため、余分な脂をつけません。
ただ、日本の古来種、今の日本の牛の原種とも言われる丹波牛は、もともと霜降りがちな、脂をつけやすい牛です。そのため、あえて肥育するよりも、より伸びやかに、ナチュラルな生育を促す事により、より霜降りと、赤身のバランスが熟成に適し、旨味も深いものになると思われます。そして、その脂は熟成することで変質し、融点が下がり、口溶けの良い脂となります。脂っこさは消え、透き通るような綺麗な旨味となり、赤身の旨味を引き立てます。コクもあり、ナッツのような香ばしさと、100日以上をかけて失った水分の欠如による肉の旨味の凝縮とその食感があいまって、フランス最高峰の熟成肉に引けを取らないものとなりました。注文が入ってから、吊るしてある肉から必要分だけを切りだす。その切り出した肉の色合いの美しい紅色は、わずかに透明感を持ち、クルティーヌでは「マチュラシオン・ルージュ」と呼んでおります。
パリの有名熟成肉ビストロ、ル・セヴロー
店主ウイリアム・ベルネーが訪れ、熟成肉を食す。
フランス最高峰の熟成士である2人の師は、最高の熟成肉の「脂」を、「まるでモワル(骨髄)のような味わい」と表現します。
クルティーヌがこだわる熟成肉の成熟状態、熟成のピークも、マチュラシオン・ルージュの色合いと触感と香りに、脂の質を加味して見極めております。
熟成肉は、長時間冷気の回る室内に保管することで、水分の揮発により旨味が凝縮します。例えば、クルティーヌで扱う近江牛の「ランプ肉」で計算すれば、その水分の揮発は、本来の質量の20%にまで達します。そして、仕入れの際についている骨を外してさらに15%減、その上、肉についている脂もきれいに取り除くと約20%減、肉の筋をきれいに取り除くと5%減となり、熟成により乾いた表皮、その内側の水分が飛びすぎた部分(ココが多いのですが)を外してしまえば熟成の時間やタイミングにより差はでますが、約10%減。要するに、ステーキとして食せるお肉の量は、当初の30%に満たない、ということになります(先日、20%に満たなかった時は、少し青ざめました)。そしてもちろん、熟成がより長期になればなるほどこのパーセンテージは少なくなります。
10年前のフランス滞在の頃から熟成肉に焦点を当て、世界屈指といわれる熟成の名店で培ってきた「マチュラシオン・ルージュ」を得る技術を、日本屈指の滋賀近江牛に活かした渾身の一品。長期熟成、短期熟成、ともに、ぜひお試しください。
阿佐ケ谷のフレンチレストラン「La Maison Courtine(ラ メゾン クルティーヌ)」
2016年5月
ルノー キャンペーン
”マチュラシオン・ルージュ” ビーツのリボンと熟成近江牛
マチュラシオンとは、「熟成」「成熟」という意味のフランス語。
” マチュラシオン・ルージュ ” という言葉は直訳すると「熟成の赤」。長期熟成肉の美しく、透き通るような深みのある紅色に、熟成したアルマニャックによるフランベの炎の紅を重ねております。
加えて、Loveがテーマとなるルーテシアのイメージカラーである美しい紅を、成熟した大人の恋色と捉え、「成熟の紅」とも受け取ることで、そのディナーにより、さらに深まるLoveを暗示させています。
※フランベにはフランスに現存する最古のアルマニャックの造り手である カスタレードのアルマニャック(ナポレオン 熟成15年)を使用しております。